原田正純先生の死を悼む

 6月11日、元熊本学園大教授で医師の原田正純先生が亡くなられた。
 原田正純先生のことは、大学時代に読んだ著書の「水俣病」岩波新書で知った。今から40年近く前の話である。

 原田正純先生から学んだことは、「本当の中立は弱い立場に立つこと」 という教えである。

 水俣病の患者達は、何の罪もなく、普通の生活をしていただけなのにチッソ水俣のメチル水銀を含有する排水により水俣病にさせられた。患者たちはチッソ水俣だけでなく、国からも近隣住民からも全国民からも、そして医学界の常識からも忌み嫌われ、虐げられてきた。その当時、水俣出身者は全国でその出生地を隠したと聞いている。水俣出身というと結婚できなかったのである。まるで国が隔離していたハンセン病のような扱いである。水俣病患者もハンセン病患者も全く何の罪もないのに国も全国民もあたかも彼らに罪があるかのように虐げ、虐待してきた。アイヌ人に至っては、つい最近まで法律で彼らを土人と呼んでいたのである。国は愛国心の必要性を強調するが、このように罪もない国民を助けるどころか、虐げる国に愛国心を唱える権利はない。

 昭和28年に水俣病の第一号患者が公式に発病したことになっている。それから約60年経とうとするのにこの水俣病の問題はまだ解決していないのである。

 原田先生が、水俣病研究だけでなく、三井三池炭鉱の炭じん爆発事故による一酸化炭素中毒患者の追跡、カネミ油症の長崎県五島市などでの被害調査、ベトナム枯葉剤被害の日越共同研究等幅広く調査研究されていることは知らなかった。

 胎盤は毒物を通さないので胎児性水俣病など発症するはずがないという医学常識があった時代に原田先生は患者に背中を押されて、胎児性患者の立証につなげたという。真実は現場にあるのである。

 新聞やマスメディアは中立公平でなければならないという。しかし、弱者の立場に立たない中立は、結局は巨悪を支持する立場と同一なのである。

 私は、原田先生の「本当の中立は弱い立場に立つこと」を自分の生き方としてきたつもりだが、全然適っていないかもしれない。

 謹んでお悔やみ申し上げます。

(2012年6月17日 記)

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